本日製作したコメントの一部を紹介します。
7月17日
トウモロコシ市場パート2
東京とうもろこしの日中取引は、外電換算値の300円安に対して490円安で取引を終えました。シカゴコーンの電子取引は、3セント安付近で今朝から小動きです。東京とうもろこしが外電換算値以上に大きく売られた理由は、一般投資家の値ごろ売りの増加によるものと思われます。本日の差引き売り注文のほとんどが一般店によるものでした。本日の差引き買い注文合計の476枚に対してファンド系機関店とされるN社が331枚の差し引き買い注文を出しております。注目は、そうした状態が1ヶ月間も続いていることです。それによりN社の6月23日からの差引き買い注文の合計が6345枚となりました。それは、一般店の多くが1ヶ月前から売り玉を積み上げ続けていることを意味します。この1ヶ月間で東京とうもろこしが3000円ほど上昇しているのですから、「1ヶ月間買い続けた投資家」と、「1ヶ月間売り続けた投資家」の値洗いのどちらがより優勢かを考える必要もあります。
相場急落の最大のエネルギー源は、「新規売り」より「手仕舞いの売り」の割合が大きいとされております。それと同じで相場急騰の最大のエネルギー源は、「手仕舞いによる買戻し」の割合が大きいようです。シカゴコーンが6月15日からの1ヶ月で26%ほど急騰したことも、ファンドなど大口投資家が1年3ヶ月ぶりに売り越しに転じていたときに米中西部穀倉地帯の天候悪化を受けて、ファンドの多くが「パニック的な手仕舞いによる買戻し」を実施したことによるものが大きかったようです。その時のシカゴコーンの大口投資家によるポジションは、6月23日終了週の「4万6313枚の売り越し」から7月7日終了週の「20万8700枚の買い越し」へと劇的なポジション変更が行われました。そして、東京とうもろこしでは、この1ヶ月間で一般店の多くが売り玉を積み上げ続けてきたことから、シカゴコーンが堅調地合いを続ける事になれば、一般投資家の「踏み上げ」を誘うことにもなります。
世界的に著名なファンドマネージャーであるラース・トゥヴェーデ氏は、「市場での売りと買いは常に等しい量だ。したがって多数が買うときは、売り手は平均して買い手よりも大物・大きな資金の運用者(大魚)となる。90%の投資家が強気なら、平均的売り手は平均の買い手と比べ10倍も大きい。強気筋が95%にもなると売り手は20倍もの大魚になる。強気筋が大多数ということは、古典的な分散過程の終焉を意味し、相場はまもなく反転することを示唆する。」という名言を残されております。東京トウモロコシ市場では、ファンド系機関店とされるN社が1456枚の買い越しとなっております。15店合計の差引きポジションが2390枚ですから、それに対してN社が1456枚の差引き買い越しのポジションを構築しているのです。今の東京とうもろこし市場の「大魚」とされるメインプレーヤーと、それに反するポジションの多数派との関係を再確認する必要があるのかもしれません。
7月13日
ゴム市場「中国株問題」
本日のマーケットは、全体的に朝から静かな展開となり、3連休を前にした国内市場の「連休前の様子見気分」を感じさせます。そうした中で、中国株の急騰がやや目立ちます。上海総合株価指数が3%高付近まで急騰しており、2連騰となっております。来週の商品市場の注目は、「中国関連銘柄」となる可能性もありそうです。
中国株下落に対する中国政府の対策に、かなり否定的なコメントが増えました。中国政府の対応により、中国株に対する悲観的なコメントも目立っております。持ち株比率5%以上の株主に対して半年間の株式売却禁止措置を発表したことや、市場全体の5割の銘柄が取引停止となったことに対する否定的なコメントが多いようです。しかし、こうした中国政府の対応は、リーマンショック後に各国で見られた対応とそれほど変らないのではないでしょうか。
リーマンショック後には、米国を中心とする多くの国が株式取引の規制強化に動きました。米国では、金融規制改革法が成立し、1930年以来の抜本的な金融規制改革となりました。米国の金融規制改革法では、主に金融機関への規制強化が行われました。
リーマンショック後に行われた世界的な規制強化は、
① 自己資本の質・量・比率の拡充。
② 自己資本比率規制。
③ 金融機関の過度なリスクテイクを抑えるためのレバレッジ比率規制の導入、トレーディング勘定のリスクウェイトの引き上げ。
④ 短期金融市場における流動性枯渇リスクに対応するためのレバレッジ規制及び安定調達比率規制の導入。
⑤ 金融システム動揺時の公的資金への依存やモラルハザード回避のためのシステム上重要な金融機関への所要自己資本上乗せ。
⑥ 格付対象会社との利益相反関係が潜在する格付会社への規制。
⑦ ヘッジファンド等シャドーバンキングへの規制の網かけと強化。
⑧ 商業銀行の規模や業務範囲の縮減を企図したボルカー・ルールをベースとした米国ドット・フランク法の制定。
⑨ EU における金融取引税導入議論。
⑩グローバル規模で金融システムの健全性を監視するマクロプルーデンス体制構築の議論など、多種多様にわたる規制強化が行われました。
米国は、リーマンショック後に金融機関やヘッジファンドなどに対する取引規制強化を行いました。米国市場でのメインプレーヤーが「大手金融機関やヘッジファンド」ですから、当然の結果ともいえます。しかし中国市場のメインプレーヤーは「一般投資家」です。それにより中国政府が今回、一般投資家に対する規制強化を数多く発表したことも、当然の結果ではないでしょうか。リーマンショック後は、各国が株式投資の規制強化に動きましたが、当時は、それが当たり前のように感じられました。しかし今回は、中国株だけが3週間で3割強の暴落となり、中国政府が数多くの対策を発表したのですから、中国政府の対応に対して世界中から否定的な意見が増えたのかもしれません。これがもしリーマンショック後であれば、今回の中国政府が実施した対応に否定的な意見も出なかったのではないでしょうか。
株価下落に対して中国政府は今回、2500億元(約5兆円)の経済対策を決定しました。この規模を見る限り、中国政府の余裕が感じられます。2008年のリーマンショックの時は、中国政府が5860億ドル(約71兆円)の景気対策を発表しました。この経済対策は、当時の欧州連合(EU)による経済対策の約3倍であり、当時は世界中から歓迎されました。金額的には、今回の経済対策は、「リーマンショック時に実施した経済対策の7%程度」に過ぎません。しかも中国人民銀行が4月14日に発表した3月末の外貨準備高は3兆7300億ドル(約446兆円)です。中国の外貨準備金や過去の経済対策などから比べると、中国政府が今回発表した経済対策など金額的には「小手調べ」程度の比較的小規模なものでしょう。中国の外貨準備金や過去の経済対策から考えると、中国政府の経済対策に対する余力の大きさに注目する必要もありそうです。そうしたことを考慮すると、今後の中国株が上昇に向う可能性も高そうです。それにより、これまで中国株暴落の影響を大きく受けた上海ゴムが上昇に転じ、東京ゴムも本格的に上昇に転じると考えるべきかもしれません。
7月17日
原油市場「中東の地政学的リスクの上昇」
エジプトのカイロでは、検事総長暗殺に続いて、イタリア総領事館前で爆弾事件があり、16日にも大統領官邸近くで爆弾事件がありました。エジプトのシナイ半島では、ほぼ連日エジプト軍治安部隊とイスラム国(IS)との間で激しい衝突が続いております。ISは16日、シナイ半島の海岸近くで誘導ミサイルによりエジプト海軍フリゲート艦を破壊したと発表しました。フリゲート艦がミサイルで破壊される複数の写真がネット上で公開されております。これは、かなりインパクトが大きい出来事です。イランとシリアで勢力を広げるISが、エジプトまで勢力を伸ばしてきたことは、原油市場にとって警戒が必要となります。
ISISの正式名称は、「イラクとシャームのイスラム国」です。シャームとは、現在のシリアやアラブ共和国およびレバノン、ヨルダン、パレスチナ、イスラエルを含む地域の歴史的な呼称です。現在では、ISISを「イラクとシリアのイスラム国」と呼ぶようになりました。また、ISISを略してISと呼ばれます。ISがシリアやイラクで勢力を拡大させている理由は、「イラクとシャームのイスラム国」設立という目的のためです。しかし、ISが「イラクとシャーム地方」以外の国への勢力拡大に動いていることに注目でしょう。
エジプトでは、チュニジアにおいて長期政権を倒したジャスミン革命に触発され、29年間の長きにわたる独裁政権を続けたムバラク政権が崩壊しました。独裁政権崩壊後のエジプトで政治的に不安定な状態が続いており、それに目をつけたISがエジプトでの勢力拡大を目指しているようです。ジャスミン革命に触発されてリビアのカダフィー独裁政権が崩壊しましたが、独裁政権崩壊後のリビアが政治的不安定となり、ISがリビアで勢力を拡大させました。今でもISとリビア政府軍の戦闘が続いております。チュニジアでは、ジャスミン革命により独裁政権が崩壊しましたが、政治的不安定となり、ISがチュニジアでも勢力を伸ばしております。イラクでは、フセイン独裁政権が崩壊して政治的不安定が長期間続き、ISが勢力を拡大することになりました。シリアでも、アサド大統領の独裁的な政権に対する反政府勢力がアサド政権打倒に動き、アサド大統領政権のシリア領内での実質支配地域が3割程度にまで低下するほどの政治的不安定となり、そこでもISが勢力を伸ばしました。ISは、独裁政権崩壊後の政治的不安定な国々で勢力拡大を進めてきたことから、ISがエジプトで勢力拡大を行っていることは、自然な流れかもしれません。
シナイ半島でISとエジプト軍の戦闘が続いており、シナイ半島沖のエジプト海軍フリゲート艦がISの誘導ミサイル攻撃で撃破されたことにより、シナイ半島のスエズ運河への警戒が必要となりそうです。スエズ運河を航行する石油タンカーは、シナイ半島沖を航行することになるだけに、原油市場にとっても中東の地政学的リスクの上昇が気になるところではないでしょうか。