東京ゴム市場分析「エボラ出血熱によるゴム手袋業界の特需」

 上海ゴムが5年ぶりの安値水準に沈み、底なし沼のような様相を呈しております。特に、1日の出来高が80万枚を超えることもある上海ゴム市場は、世界のゴム市場の中で主軸市場になりつつあり、その市場規模の大きさが注目されております。上海ゴムは、昨年12月頃から下落基調を続けていたものの、今年4月ごろから下げ渋りの様相を呈し、ようやく底打ちしたかに思えました。しかし、上海非鉄金属銘柄全体の先月下旬ごろからの下落基調に、上海ゴムも追随を余儀なくされたようです。どうしても上海期貨交易所の大半が非鉄金属銘柄で構成されているだけに、同交易所の花形銘柄でもある上海ゴム市場は、上海非鉄金属市場全体の値動きに大きな影響を受けているようです。目先的には、上海非鉄金属銘柄全体が下げ止まれば、5年ぶりの安値にまで沈んだ上海ゴムの反発力が垣間見られるのかもしれません。また、年初来高値付近で横ばいを続けていた上海総合株価指数が、先週末より2日連続で年初来高値を更新し始めたことも注目かもしれません。そして、上海非鉄金属銘柄全体が本日で2日続伸となっていることから、上海非鉄金属銘柄全体の基調転換となるのかもしれません。

 東京ゴムは、年初来で約28%下落しており、6月にほぼ6年ぶりの安値を記録しました。年初より世界的な天然ゴム価格の下落を導いた主原因は、供給過剰とされております。国際ゴム研究会(IRSG)は、今年5月に世界最大の輸出国であるタイの生産高予想を引き上げ、今年の供給過剰分が昨年の714000トンを上回るとの見通しを示したことが、ゴム価格を圧迫し続けたようです。2年連続での大幅な供給過剰となれば、5~6年ぶりの安値にまでゴム価格が沈むことも仕方がなかったのかもしれません。しかし、今週になりIRSGが、世界の天然ゴム供給の2015年の過剰分が今年よりも46%減少するとの見通しを発表するとともに、今年の供給過剰分を371000トンへと見通しを下方修正しました。IRSGが5月時点の見通しから変更した理由は、需要が拡大する一方、価格下落に伴ってラテックスの採取が減少していることを挙げております。価格下落に伴い、生産者の生産意欲が低下することは、仕方がないことかもしれません。また、15年の天然ゴム生産は需要を202000トン上回ると予想していることも注目かもしれません。20万トン程度の供給過剰予想であれば、タイ政府が20万トン以上の棚上げを実行すれば、供給不足に変化する程度のことかもしれません。また、天然ゴムの低価格が更に長引けば、生産者の生産意欲が更に低下し、来年度が供給不足へと変化するかもしれません。

 ここにきてマレーシアの大手ゴム手袋メーカーの株価が高騰していることが注目されております。マレーシアは、世界第3位の天然ゴム生産国であり、世界有数のゴム手袋生産国です。西アフリカでエボラ出血熱が感染拡大しており、感染予防としてゴム手袋の需要が急増するとの観測が背景にあるようです。前回、マレーシアのゴム手袋業界が特需に沸いたのは、WHO20094月に鳥インフルエンザの緊急事態を宣言した時であり、その時は、天然ゴム価格も上昇傾向を続けました。ただ現時点では、エボラ出血熱が09年の鳥インフルエンザほどの感染規模に達していないため、ゴム手袋業界が特需に沸くほどには達していない模様。ただ、エボラ出血熱がいまだ感染拡大を続けており、鳥インフルエンザと比べ物にならないほどの死傷者を記録している事から、ゴム手袋業界が特需に沸く可能性は注目かもしれません。WTOの昨日の発表では、エボラ出血熱による死者が1145人に達しており、感染が確認、あるいは疑われるケースが2千名ほどに達している模様。エボラ出血熱のパンデミックが警戒される中、WTOの事務局長は1日、アフリカ西部諸国で流行しているエボラ出血熱について「われわれの阻止する努力を超える速さで拡大している」と述べ、制御不可能なレベルに達しつつあるとの認識を示しております。西アフリカからの渡航に対して、各国の空港も検査実施を視野に動きだしている模様。過去には、エイズが世界的に騒がれ始めた時にコンドーム業界の特需が起こり、日本のコンドームメーカーである岡本理研ゴムの株価が高騰するとともに、天然ゴムが上昇を続けた事を記憶している方も多いのではないでしょうか。最近では、中国で微小粒子状物質「PM2.5」などによる大気汚染が騒がれ、マスク業界と空気清浄器業界の特需が起こった事は、記憶に新しいところでしょう。09年の鳥インフルエンザの感染拡大の時もゴム手袋業界の特需が起こり、天然ゴム市場を上昇させただけに、今回のエボラ出血熱の感染拡大に伴うマレーシアのゴム手袋メーカーの株価高騰は、天然ゴム市場にとって無視できないことかもしれません。