今月12日の米農務省による需給統計では、トウモロコシの生産高が140億3200万ブッシェルとなり、事前予想の142億5300万ブッシェルを下回ったものの、総供給が1億7200万ブッシェル上方修正され、過去最高の152億4300万ブッシェルとされました。9月中旬ごろから収穫作業が始まる事から、この「収穫直前の需給統計」の発表により、マーケットは大豊作を織り込んだと見る向きもあるようです。マーケットの反応も、12日の需給統計の発表を境に上昇に転じております。シカゴコーンは、5月9日に5ドル19セントの高値を付けたものの、その直後から強力なダウントレンドを形成し、8月12日に3ドル47セントの安値を記録。しかし、同12日の米農務省による需給報告の発表直後から上昇基調に転じており、現在は3ドル65セント付近で推移。この値動きを見る限り、12日の需給報告で大豊作が織り込まれたかに感じられます。これまでも「8月の需給報告」でシカゴコーンがトレンドを反転させる傾向がありました。相場格言でいうところの「知ったらしまい」、「噂で買って、事実で売れ」、「豊作に売りなし」という事かもしれません。

 今年は、米国と中国の穀物が豊作見通しとなり、今後、収穫作業が進むにつれて、貯蔵サイロ不足に悩む農家も増えそうです。米国では、2年連続での豊作により、収穫が進むにつれて米中西部のあちこちでトウモロコシの山が出現するとの意見もあります。米農務省は、来年のトウモロコシ在庫が2006年以降最高の18億800万ブッシェルに達し、2年前の在庫水準の2倍以上に膨れ上がると予想しております。2年前の在庫が低水準過ぎたのですが、それでもこの2年間での在庫見通しの変化には驚かされます。一方、中国では、11年目の豊作が予想されており、国営メディアによると、政府は1億5000万トンの穀物を抱えると推測しております。中国政府が保有しているトウモロコシ在庫は、世界全体の在庫の4割ほどとされており、中国市場でのダブつきも気になるところでしょう。これから収穫作業が進むにつれて、米中での備蓄サイロ不足が深刻になり、あちこちでトウモロコシが山積みされるとの意見もあります。しかし、そうしたことが現時点で予想されていることから、すでに現在のトウモロコシ価格は、そうした状況を反映しているとの意見もあるようです。

 米国のトウモロコシ需要の3分の1は家畜用飼料、そしてエタノールも3分の1を占め、残り3分の1が輸出に向けられております。しかし、中国へ輸出された米国産トウモロコシに認められていない遺伝子組み替え作物が含まれているとの理由で、中国政府が米国からの引き取りを拒否したため、米国は最大輸出国である中国への今年上半期の輸出量が前年同期比86%減へと激減しました。このこともシカゴコーンを急落させる要因となりました。豊作予想と中国への輸出量激減のダブルパンチにより、シカゴコーンが5月中旬ごろから3か月間で33%下落しました。しかし注目は、12日の需給報告発表以降、緩やかですが上昇に転じている事かもしれません。米トウモロコシ価格が4年ぶりの水準にまで下落したことにより、米国でのトウモロコシ需要が増加し始めているようです。トウモロコシ価格が大きく下落したことにより、米国での家畜用飼料に対するトウモロコシの配合比率を引き上げ、その代わりに干し草やアルファルファなど割高な原材料の配合比率を引き下げる動きが報告されております。シカゴコーンが1年前の半値以下にまで下落したのですから、これからも世界的に家畜用飼料に対するトウモロコシの配合割合が増加する事が予想されます。 

これまでのシカゴコーン市場では、「どれだけ収穫できるのか?」という天候相場特有の思考が注目されてましたが、これからの需要相場では、「需要がどのように変化するのか?」という思考が注目されることになるのかもしれません。投資家としては、天候相場と需給相場とでは、注目する視点、考え方を切り替える必要があるのではないでしょうか。昨年、不作懸念を背景にシカゴコーンが8ドル40ドル付近まで上昇したものの、8月の農務省発表で不作が確定となり、その直後から暴落が続き、昨年末には4ドル付近まで下落する事となりました。2008年も、同じように4ドル付近から7ドル付近まで上昇を続けたものの、8月の需給報告で不作が織り込まれると、その年の年末には3ドル付近まで下落しました。08年や13年のように、不作でも年央から下落トレンドを形成した理由を思い返せば、今後の作戦に役立つのではないでしょうか。「知ったらしまい」、「噂で買って、事実で売れ」、「豊作に売りなし」ということわざがあり、天候相場と需給相場とでは、視点や考え方を切り替えることが必要かと思われます。