全米原油在庫は、昨年末までかなり緩やかな増加傾向を続けていたものの、1月から急激な増加が始まりました。添付している全米原油在庫のグラフにもそのことが示されております。1~2月が製油所の定期保守点検シーズンとされることから、製油所稼働率の低下も在庫増加の原因の1つとされております。しかし、製油所稼働率が年明けから1月23日にかけて低下したものの、その後はやや回復基調となっていることから、製油所稼働率の低下よりも石油元売り大手の備蓄在庫の急増が原油在庫の年明けからの急激な増加を招いたと考えるべきかもしれません。

 NY原油市場が昨年10月より急落したことにより、NY原油の当月限と先限の価格差が急拡大しました。NY原油市場の取引中心限月が当月限や2番限といった期近限月であることから、期近限月中心の急落が価格差拡大の要因とされております。また、今年後半から世界の原油需給が供給不足に転じるとの見方もある事から、当月限と先限との価格差が拡大しているとも言われております。そして、当先の価格差が急拡大したことにより、石油元売り大手が備蓄在庫を急増させているとの指摘もあります。NY原油の26日の5月限価格が51.4ドル付近、1年先の4月限価格が59.3ドル付近ですから、その差は8ドルほどです。石油元売り大手としては、現在の51ドル付近で仕入れた原油を現在値で販売するより、現在値より8ドルほど高い1年先の限月に売りつなぐほうが得策と考えることは自然なことでしょう。それが石油元売り大手による備蓄在庫の増加に繋がっているようです。まるで、「原油急落→当先の価格差拡大→石油元売り大手の備蓄在庫急増→在庫急増による原油価格の急落」という「負のスパイラル」が続いているようにも感じられます。CFTC発表のNY原油市場における商業玉による売り玉総数が84万3911枚(総取組高の約47%)となり、ファンドなど大口投資家による買い玉総数が51万6956枚です。普段であれば、商業玉による売り玉総数と大口投資家による買い玉総数が同水準で対峙しているものの、今では商業玉による売り玉総数が圧倒的に多くなっております。こうしたことからも、石油元売り大手が備蓄在庫を急増させてNY原油市場に大量にヘッジ売りしていることが伺えます。

 原油急落による在庫急増は、過去にも何度かありました。NY原油が2008年7月の147ドル付近から同年12月の32ドル付近にまで急落した時は、全米原油在庫が2008年10月の約2億9000万バレルから4ヵ月後に約3億5000万バレルまで急増しました。まさに「時代は繰り返される」ということでしょうか。そうなると「在庫急増により原油価格が下落する」という考え方より、「原油急落により当先の価格差拡大を招き、それにより原油在庫が急増した」と考えるべきかもしれません。そして、過去のパターンを参考にすれば、「全米原油在庫は、原油価格の上昇と共に減少する」という見方も一考かもしれません。そして、原油価格が上昇すれば、NY原油市場に大量に仕掛けられている「商業玉のヘッジ売り」の手仕舞いの買い戻しが始まる可能性もあります。昨年からの原油急落により、NY原油市場におけるファンドの買いこし枚数が半分ほどにまで激減する中、商業玉により売り玉総数が過去最高水準まで膨れ上がっていることから、更に原油市場が上昇すれば、「ファンドの新規買いと商業玉の手仕舞いの買戻しが加速する」となる可能性も高まります。過去最高にまで膨れ上がった全米原油在庫により、今の原油市場の雰囲気は弱気な見方に包まれているように感じられますが、「強気相場は、悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成長し、幸福の中で消えていく」という相場格言もあり、本当に良い買い場とは、原油市場が悲観に包まれている時ではないでしょうか。


全米原油在庫
全米原油在庫

全米原油在庫(過去)
全米原油在庫(過去)

NY原油の月足
NY原油の月足

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