5月16日

原油市場パート3

米イスラエル大使館のエルサレム移転式典が14日に行われ、それに反対するパレスチナ人による3万5000人にも及ぶ大規模デモが発生しました。しかし、翌15日には、デモ参加者が数百人規模にまで縮小したそうです。イスラエル軍が14日のデモで強硬姿勢を示したことにより、デモの規模が急激に縮小したようです。デモによる死者数も14日の55人から15には2人にまで減少したことも報告されております。これにより、中東の地政学的リスクの低下を受けて、原油価格が下落に転じる可能性も出てきました。

 米原油生産の増加量は、1月で日量13万7000バレル、2月で36万4000バレル、3月で17万7000バレル、4月で15万9000バレとなり、5月4日時点での年初からの増産量は日量92万1000バレルです。そして、5月4日時点での米原油生産量が日量1070万3000バレルとなり、あと2~3カ月ほどでロシアを抜いて米国が世界一の産油国となりそうです。

 米原油生産は、2011年からの4年間に及ぶ第1次シェールオイル開発ブーム中に日量400万バレルほどの増産を行いました。しかし、その後の原油価格急落により、1年間で日量110万バレルほどの減産となりました。そして、昨年11月からの第2次シェールオイル開発ブームで日量115万バレルもの増産を行いました。これまでの増産の大部分が従来型油田からではなくシェール油田からの増産となり、現時点での米原油生産の7割ほどはシェールオイルが占めております。

 2010年当時のNY原油は100ドル付近で推移しておりましたが、当時のシェールオイルの生産コストは1バレルあたり80ドル付近であり、生産コストと市場価格との差が20ドル程度でした。しかし、現在のシェールオイルの生産コストは1バレル当たり44ドル付近まで低下しており、NY原油が71ドル付近まで上昇しているので、生産コストと市場価格との差が27ドルほどにまで拡大しております。それにより、米シェールオイル開発企業の1~3月期決算では、多くの企業が過去最高の利益を計上することになりました。

 1カ月ほど前からの原油市場では、「米国の経済制裁が再開されれば、イラン産原油輸出が減少する」との思惑により原油価格が上昇を続けてきました。しかし、経済制裁が再開されてイラン産原油輸出が日量40~50万バレルほど減少したとしても、米国の2~3か月分の増産で補える計算です。しかも、NY原油が71ドル付近まで上昇しており、米シェールオイル開発企業の多くが1~3月期決算で過去最高水準の企業利益を計上したのですから、米国の増産ペースが加速する可能性は高そうです。しかも、米国からの圧力に反してEUとイランが核合意の継続に対して交渉を進めているので、たとえ米国が経済制裁を再開しても、それほどイラン産原油輸出が減少することもなさそうです。更に、イラン産原油輸出が減少すれば、それをサウジアラビアなどが補う構えも見せております。そして、米大使館のエルサレム移転に関するイスラエル軍とパレスチナ人との衝突も15日になってかなり沈静化してきたことを考えると、ここにきて原油価格が下落トレンドに転じる可能性が高まってきたように感じられます。
米原油生産1
米原油生産2