メール情報会員に本日配信しました週間レポートの一部をご紹介します。参考にどうぞ。
原油市場の総括
先週6日の産油国会合で減産協議が決裂し、「サウジアラビアとロシアによる増産競争が始まる」との観測と新型ウイルス問題が週明けの原油価格を暴落させました。そして、12日のNYダウが2352ドル安となって過去最大の下げ幅となり、NYダウが2日連続で大幅下落となりましたが、それでもNY原油が2日連続で小幅安に留まっております。本日13日の日経平均株価が10時半時点で1660円安という大幅下落を記録しましたが、それでも東京ドバイ原油が10時半時点で80円安とほとんど下落しておりません。それにより原油価格は、週明けの暴落で下値を出しきったのかもしれません。NY原油は、リーマンショックの時でも32ドル台までしか下落しておらず、2016年の安値と週明けの27ドル台の安値でダブルボトムを形成する可能性も出てきました。
11年間続いた米国株の強気相場が終了したことや、新型ウイルスの世界的な感染拡大に伴う「世界の原油消費の減少見通し」は気になります。しかし、米実質GDP成長率は、リーマンショック後にマイナス8%台まで大幅低下しましたが、2019年10~12月期でプラス2.1%です。世界経済における実質GDP成長率は、新型ウイルスによる影響を考慮しても今年はプラス2.5前後は予想されますが、リーマンショック直後はマイナス3.4%にまで低下しました。リーマンショック後は、世界経済が深刻な不況となりましたが、それでもNY原油の下値は32ドル付近でした。今回の新型ウイルスの世界的な感染拡大を受けてマーケット全体がリスクオフ一色となってきましたが、原油市場に対して必要以上に悲観する必要はないのかもしれません。
米国株が11年間も強気相場を続け、「過去最長の強気相場」となっていただけに、今回のような米国株の暴落は、「訪れるべくして訪れた下落局面」と考えるべきかもしれません。そして、米国株が弱気相場入りしたといっても現在のS&P500種株価指数は、「リーマンショック後の安値」の4倍ほどの水準を保っております。そして、現在のNY原油は、リーマンショック後の最安値とほぼ同水準ですので、週明けの暴落で原油価格が下値を出しきった可能性もあります。
景気循環には、「景気拡張期」と「景気後退期」の2局面があり、「好況、後退、不況、回復」の4局面に分けられます。それにより現在の世界経済は、経済成長がピークを過ぎたことで「景気後退期」に入っており、4局面では「後退」となります。それにより、世界経済が「不況」を迎えることは避けられませんが、緩和策などで人為的に「不況」までの期間を調節することは可能とされております。そして、「金融引き締めが必要なほど経済成長率が高くなく、金融緩和が長期間必要とされるほど経済成長率が低く、それでいてすぐに不況となるほど経済成長率が低すぎることもない経済状況」の事を「ゴルディロックス」と呼ばれており、株価が最も上昇しやすい状況とされております。昨年末の世界のGDP成長率が3%程度なので、世界経済が「マイナスGDP成長率の不況」に突入するまでは、まだかなりの時間が必要となりそうなので、現在の世界経済はまだ「ゴルディロックス」の状況を続けていることになります。それにより、米国株の弱気相場が長期間続く可能性は低そうです。
今回の原油価格の暴落で、ロシアとサウジアラビアの今年のGDP成長率がマイナスに転じ、両国の財政収支が大幅赤字に転じると見られているだけに、両国は近いうちに減産合意に動く可能性があります。そして、今月中旬に開催予定のOPECプラスによる合同専門家会議で、サウジアラビアとロシアが歩み寄って減産合意への方向性が示される可能性もあります。その反面、ロシアとサウジアラビアとの増産合戦がしばらく続く可能性もあります。
2014年秋のOPEC総会で減産協議が決裂し、原油価格が暴落したこともあります。それによりNY原油は、2016年2月に26ドル台の安値を記録しました。2011年~2014年の原油価格が100ドル前後で推移していたので、米国で第1次シェールオイル開発ブームが到来し、米原油生産が劇的に増加したことが原油価格を暴落させました。シェール油田の開発期間は早ければ3~4週間とかなり短期間で済むので、増産に対して短期間で対応できます。それに対して従来型油田(自噴型油田)の開発期間は5~10年程度と長期間かかるので、増産に対してすぐに反応出来ません。また、従来型油田(自噴型油田)は、地圧によって地下深くの原油が噴出しますので、噴出量を途中から増加させることは出来ません。従来型油田(自噴型油田)に依存するサウジアラビアとロシアの油田は、これまでのOPECプラスによる協調減産により停止させていたオイルリグを短期間で再稼働させることは出来ますが、新たな油田開発には5~10年程かかります。そうしたことを背景として、ロシアとサウジアラビアが4月から増産合戦をしても、稼働停止中のオイルリグの再稼働が一巡すれば、更なる増産にかなりの年月が必要となります。その反面、米国のシュール油田の産出量は、開発後1年半で開発当時の半分程度にまで減少し、開発後3年程度で油田の寿命が尽きます。それにより米国原油生産は、原油価格が暴落すれば、短期間で大幅減産となる可能性があります。