本日製作しました週間レポートの一部をご紹介します。参考にどうぞ。



原油市場の総括

 トランプ大統領は昨夜、自身のツイッターで「ロシアのプーチン大統領と会談した。そして、サウジアラビアのサルマン皇太子に話を聞いたところである。彼らは1000万バレル、もしくはそれ以上の減産をするというし、期待している。実現すれば石油・ガス業界に朗報だ。」とコメントし、その直後にも「1500万バレルになる可能性もあるらしい.皆にグッドニュース、大ニュースだな。」とコメントしました。これを受けてブレント原油が昨日23時半ごろに26.6ドル付近から瞬間的に一時35.99ドルまで暴騰し、その後は30ドル付近で推移しております。

 OPECプラスが日量1000万バレルの減産をすることになれば、OPECプラス全体の原油生産が4分の1ほど減少する事になるだけに、現実味は全くありません。一方、OPECプラスが1週間当たり1000万バレルの減産をするのであれば、日量142万バレルの減産となるので、現実味はあります。トランプ大統領が昨夜コメントした「1000万バレルもしくはそれ以上の減産」というのが日量なのか1週間当たりなのかが不明です。しかし、サウジアラビアがOPECプラスによる緊急会合の開催を要請したことも伝わっているので、「OPECプラスによる協調減産」が復活する可能性が高まってきました。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2月24日からNYダウが下落トレンドに転じ、それと共にNY原油も2月24日から下落基調に転じました。そして、3月6日の産油国会合で大方の予想に反してOPECプラスによる減産協議が決裂し、原油価格の下げ足が速まりました。原油市場にとっては、「コロナショック」と「減産協議の決裂」というダブルパンチで大幅下落することになりました。

 3月6日に開催されたOPECプラスによる減産協議では、サウジアラビアなどOPEC諸国が、「協調減産の延長」と「追加減産」の合意を求めましたが、それに対してロシアは、これまで通りに「協調減産の延長」には賛同したものの、「追加減産」に反対したことで、減産協議自体が決裂し、2017年1月から延長され続けてきた「協調減産」まで決裂することになり、「ロシアとサウジアラビアとの増産合戦」に突入しました。

 しかし、新型ウイルスによる予想を上回る感染拡大を受けて世界の原油需要が大幅減少しましたので、いくらサウジアラビアとロシアが増産しても、両国の原油輸出量を増加させること自体が困難となりました。それどころか、世界の原油需要の大幅減少を受けて、両国の原油輸出が以前より減少する可能性さえ高まってきました。こうなると、「ロシアとサウジアラビアとの増産合戦」自体が無意味となってきましたので、両国がここにきて急に協調減産に協力する姿勢を示し始めたようです。

3月6日の減産協議では、ロシア側が、「ロシアの財政均等価格が原油価格で42ドル付近なので、追加減産する必要はない」との意向を示したことで、サウジアラビアの反感を買いました。当時のブレント原油は52ドル付近で推移しておりましたが、現在のブレント原油は30ドル付近まで下落しているので、ロシアの財政収支が大幅赤字となる可能性が高まってきました。ロシア政府の歳入の5割弱が石油・天然ガスで占められており、現在の原油価格がロシア政府の財政均等価格の半値近くまで下落している状態ですから、ここにきてロシア政府がOPEC諸国や米国との協調体制に賛同し始めたことも納得できます。

一方、サウジアラビアの財政均等価格は、原油1バレル=60ドル付近とされているので、サウジアラビアの今年の財政悪化はかなり深刻な状態となりそうです。サウジアラビアのGDP成長率は、原油価格が暴落したことで2009年と2017年にマイナス成長に転落した経緯があり、今年はかなり大きくマイナス成長に転じることが予想されているだけに、サウジアラビアが減産合意に動く可能性はかなり高そうです。

 米シェールオイル生産のホワイティング・ペトロリアムは1日、米連邦破産法第11条(民事再生法に相当)の適用を申請し、今回の原油価格の暴落で初めてとなる原油生産に関する上場企業の経営破たんとなりました。これには、米シェール油田が集中する米中部や米南部を支持基盤としているトランプ大統領の再選が危ぶまれます。トランプ大統領は、3月31日、ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのサルマン皇太子に対して、「ロシアとサウジアラビアとの増産合戦」を停戦するようにテレビ会談を行いました。それに対してロシアとサウジアラビアは、協調体制を強める賛同する姿勢を示しました。そして、トランプ大統領は、米大手石油会社の首脳陣と3日に会談を行い、独立系石油会社の幹部とも3日か4日に会談することを明らかとしました。この会談がうまくいけば、新たに米国が加わって「OPECプラスによる協調減産」が復活する可能性も高まります。特に、サウジアラビアは、「米国を含む世界の主要産油国すべてが減産に同意しない限り、世界市場を供給であふれさせる方針は撤回しない」と主張してきましたので、米国が新たに「OPECプラスによる協調減産」に賛同する可能性が出てきました。それを占う上でも本日3日に予定されている「トランプ大統領と米大手石油会社の首脳陣との協議」に注目でしょう。ここにきてOPECプラスによる協調減産が復活する可能性も高まってきただけに、原油市場がしばらく底堅く推移しそうです。